衛星で見えた海洋油汚染、年間160万平方キロに
米国の非営利団体スカイトゥルース(SkyTruth)が、衛星画像と機械学習、船舶の位置情報を組み合わせて2023年から2025年の海洋の油汚染を追跡した報告書をまとめた。それによると、船やオフショア油田施設から出る油膜は年間でおよそ160万平方キロメートルに及び、モンゴルの国土面積をわずかに上回る規模だという。これまで見えなかった沖合での排出を、衛星データが可視化した形だ。
何が起きたのか
スカイトゥルースの報告書によれば、油膜面積の81%は船舶に起因し、主に貨物船とタンカーによるものだった。18%はオフショア油田施設などの海洋インフラによるものだ。排出の多くは、船底にたまる油と水の混合物「ビルジ」の処理に伴うもので、タンカーが貨物タンクを洗浄した際に原油の残留物を海に流すケースもあるという。
同団体のジョン・エイモスCEOは、以前はどの船の運航者も沖合の真ん中で何をしていても誰にも気づかれないと確信できたが、状況は変わり「今は見えるようになった」と述べている。衛星で確認された油膜が最も多かったのはインドネシア海域の823件で、マレーシアの214件が続いた。両国が面するマラッカ海峡は、世界で最も船舶の往来が激しい海域の一つとされる。
報告書は、繰り返し油を排出しているとみられる船舶を20隻特定したが、所有者の記録をたどれたのは9隻にとどまった。このうち2隻はインドネシアのPT Waruna Nusa Sentana社、2隻はナイジェリアのSea Transport Services Nigeria社に関連するという。可視化はできても、責任の所在を特定する段階で壁に突き当たる実態がうかがえる。
背景
船舶からの油の排出は、国際条約MARPOL(海洋汚染防止条約)で厳しく制限されている。1973年に採択されたMARPOLは、ビルジ水を海に排出する際の油分濃度を100万分の15(15ppm)以下に抑えることを義務づけている。これを超える排出は条約違反となる。
エイモス氏によると、油を含む廃液を船内に保管したまま適切な処理施設のある港まで迂回するのは費用がかさむ。大型貨物船の1日の運航コストは数万ドルに及ぶこともあり、「誰も見ていないと思える沖合まで出てから、そのまま海に直接流す」という選択につながりやすいという。衛星とAIによる監視によって、こうした経済的な誘因に基づく違法排出を、これまでより広い範囲で捉えられるようになった。
日本にとっての意味
日本もMARPOLの15ppm基準を国内法に取り込んでいる。海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律の施行令第1条の9は、ビルジなどの排出基準として、希釈しない場合の油分濃度を1万立方センチメートルあたり0.15立方センチメートル以下と定め、違反すれば同法第55条により罰金が科される。油記録簿への記載義務もあり、記載を怠ったり虚偽の記載をしたりすれば罰金の対象になる。
ただし、日本が排出を把握する経路は海上保安庁の巡視船艇・航空機による監視と、船側が自ら記録する油記録簿が中心とみられる。海上保安庁によると、令和7年に確認された海洋汚染455件のうち、油によるものは318件だった。さらに、日本の法令が及ばない公海で外国船舶の排出を確認した場合、できるのは旗国への通報までだ。これは、可視化はできても所有者の特定で止まるという、スカイトゥルースの報告書が示した構図と重なる制度上の限界といえる。