永久凍土や湿地など自然の排出、温暖化を最大3割増幅と研究
永久凍土の融解や湿地、淡水、森林火災から、温暖化そのものによって追加で放出される温室効果ガスが、2100年までにさらに最大0.4度の昇温をもたらす可能性があるとの研究結果が発表された。人為的な排出とは別に、温暖化が温暖化を増幅する「フィードバック」の大きさを、4つの自然起源の排出源をまとめて見積もった点が新しい。IPCCが参照する気候モデルの大半はこれらを組み込んでおらず、将来の昇温予測が実際より低く出ている可能性があるという。
何が起きたのか
米国の非営利団体スパーク・クライメート・ソリューションズ(Spark Climate Solutions)の気候科学者サム・アバーネシー氏らの研究チームが、学術誌Environmental Research Lettersに論文を発表した。研究は永久凍土、湿地、淡水、森林火災という4つの自然システムについて、2020年以降に温暖化そのものによって追加で生じる温室効果ガス排出量を見積もった。
その結果、これらの自然起源の排出は2100年までにさらに0.2〜0.4度の昇温をもたらす可能性があるとされた。これは2020年以降の人為的な温暖化を20〜30%増幅する規模にあたり、追加される昇温のおよそ半分はメタンによるものだという。
研究チームがIPCCの最新報告書が参照した11の地球システムモデルを調べたところ、湿地や淡水からの温暖化に伴う排出を組み込んだモデルは一つもなく、永久凍土を含むモデルは2つ、森林火災を含むモデルは5つにとどまっていた。将来の昇温予測は実際より低く見積もられ、気温目標を超えずに済む「残りの排出量(カーボンバジェット、carbon budget)」も、実際より多めに見積もられている可能性があるという。
研究チームは、永久凍土が融解した後の植生の回復など昇温を相殺しうる要因を含めていない点で、今回の推定が過大評価になっている可能性も認める。一方で、稲作や森林の立ち枯れといった他の排出源を含めていない点では、過小評価の可能性もあるとしている。永久凍土や熱帯の湿地は観測装置を置くのが難しい場所にあり、そもそも測定データが乏しいことが不確実性の一因になっているという。
背景
永久凍土には、数千年にわたって凍結したまま分解を免れてきた動植物の死骸が閉じ込められている。凍土が融けるとこれが分解されはじめ、メタンや二酸化炭素が放出される。放出されたガスが大気を暖め、暖まった大気がさらに凍土を融かすというように、温暖化が温暖化を呼ぶ循環が働く。湿地や淡水でも、水温の上昇がメタンを作る微生物の活動を活発にし、乾燥した森林では火災が増えて排出が増えるという、同種の仕組みが働くとみられる。
こうした自然起源のフィードバックは以前から存在していたが、この研究が数えているのは2020年以降に人間が化石燃料の利用や森林破壊などで地球を暖め続けたことによって「追加」された排出分だけだ。気候モデルの多くがこれを組み込んでいないのは、観測が難しく実測データが乏しいことが一因とみられる。研究チームはこうした自然起源の排出をモデルに組み込む作業を進め、2029年に予定される次のIPCC報告書への反映を目指しているという。
日本にとっての意味
温暖化が自然の排出を増やすという今回の指摘は、日本最大のメタン排出源である稲作にも関わる。環境省のインベントリでは、2024年度の日本のメタン排出のうち稲作が約4割を占め最大となっている。この排出係数は、全国各地の土壌や排水性、気象データをDNDC-Riceモデルに入力し、1981〜2010年という過去30年分の気候を前提に導かれた回帰式で算定されたものだ。
ところが農業環境技術研究所が岩手県雫石町で行った実験では、水温を2度上げると水田からのメタン発生が40〜48%増えた。報告書はモデルが高CO2濃度と温暖化によるメタン発生の促進を過小評価したと指摘し、将来予測に使うとメタンへの気候変化の影響を過小評価する可能性があるとしている。日本は2040年度にメタンを2013年度比25%減(約25百万トンCO2)とする目標を掲げるが、その4割を担う水田の数字は、2010年までの気候を前提にした係数の上に成り立っている。