抗体医薬VYD2311、ワクチンと比べ副反応少なく 米治験
米バイオ企業Invivydは現地時間の9月29日、新型コロナウイルス向けに開発中のモノクローナル抗体(monoclonal antibody、人工的に作った単一種類の抗体)「VYD2311」の第3相治験で、安全性と忍容性の評価項目を達成したと発表した。ワクチンが体内で抗体を作らせる能動免疫だとすれば、この薬はできあがった抗体をそのまま注射する受動免疫にあたる。
何が起きたのか
「LIBERTY」と呼ばれる治験は、米国の健康な成人210人を対象に実施された。参加者はVYD2311を投与する群、ファイザー/ビオンテック製mRNAワクチン「コミナティ」を接種する群、両方を受ける群の3つに均等に振り分けられた。治験は感染を防げるかではなく、副反応の頻度と体内の抗体量を調べるものだった。
投与後6日間に有害事象(治療によって新たに生じた体調の変化)や注射部位反応、アレルギー反応のいずれかを経験した人の割合は、VYD2311群で57%だったのに対し、コミナティ群では91%、併用群では79%に上った。全身性の有害事象に限ると、VYD2311群の44%に対しコミナティ群は68%、併用群は50%だった。投与56日後までの長期データでも同じ傾向で、VYD2311群の61%に対しコミナティ群は91.4%だった。
一方で、VYD2311とコミナティを併用した参加者は、ウイルスの働きを抑える中和抗体の量が、ワクチン単独と比べて2倍を超えたという。Invivydの最高医学責任者マイケル・ミナ氏は発表資料で「新型コロナ、さらにはほかの病原体に対しても、同社のモノクローナル抗体とワクチンの間に、より幅広い、まだ探られていない補完関係がありうることを示唆している」と述べた。同社は約2400人を対象とする別の第3相治験のデータと合わせ、米食品医薬品局(FDA)に加速承認(accelerated approval、重症化などの最終的な効果が出る前に、代替指標をもとに早期承認できるとされる仕組み)を求める方針だ。
背景
新型コロナの変異が進むにつれ、過去に承認されたモノクローナル抗体の中には、変異株に対して効きが弱まり使われなくなったものがある。抗体医薬は主にワクチンを打てない人や、打っても十分な効果が見込めない人向けの選択肢として位置づけられてきた。今回のLIBERTY治験は効果そのものではなく、安全性に絞って比較した点が特徴で、実際に感染を防げるかどうかは、より大規模な別の治験の結果を待つ必要がある。
日本にとっての意味
LIBERTY治験は健康な成人を対象に、ワクチンと抗体医薬を並べて比較した。これに対し日本では、同じ受動免疫の仕組みを持つ抗体医薬「カビゲイル」(2024年12月27日承認)の添付文書が、投与対象をあらかじめ「ワクチン接種が推奨されない者又は免疫機能低下等により十分な免疫応答が得られない可能性がある者」に絞っている。警告欄にも「本剤はワクチンに置き換わるものではない」と明記されており、米国の治験が健康な人への使用も探っているとみられるのに対し、日本の制度は対象を狭めて位置づけている。
抗体医薬をめぐっては、変異株への対応という課題も共通する。カビゲイルの添付文書は、Sタンパクに「F456L」という変異を持つ株に対しては中和活性が著しく下がり、効果が期待できないと明記しており、変異の広がりが薬の効力を左右する構図は、米国で進む開発にも通じるとみられる。