観測史上最強級の恐れ、ペルー沿岸遺跡にエルニーニョの脅威
ペルー沿岸には、1万2000年にわたって築かれた1万件を超す遺跡があり、その多くは雨や洪水に弱い日干しレンガ(アドベ、adobe)で造られている。2026〜27年のエルニーニョは観測史上最強になる恐れがある。数か月前から危険は予測されていたにもかかわらず、政府の備えは後手に回り、専門家は計画の不備を指摘している。
何が起きたのか
9月上旬、世界気象機関(WMO)は、非常に強いエルニーニョが定着したと確認した。影響が最も大きいとみられるのは、考古遺跡が集中するペルー北部沿岸だ。影響は2027年5月にかけて続く見通しだ。
ペルー政府は現地時間8月26日に特別委員会を設置し、その後、チャンチャン、シカン、トゥクメなど536か所の重要遺跡を対象に緊急対策費120万ドルを割り当てた。続いて現地時間9月1日には、893地区を対象とする60日間の非常事態を宣言した。文化相アルベルト・ベインゴレアはペルーの放送局RPPノティシアス(RPP Noticias)の取材に対し、「予防はもはや不可能で、残るのは最も望ましくない緊急対応だけだ」と語り、本来は4〜5年前に手を打つべきだったと述べた。
背景
エルニーニョは太平洋中部・東部の海面水温が通常より高くなる自然現象で、数年おきに発生する。ペルー沿岸では少なくとも1万7000年前から記録があり、人類がこの地に住み着く以前から繰り返されてきたとされる。乾燥した沿岸部に大雨で運ばれた粘土質の堆積物が、日干しレンガという建築技術を生んだという見方もある。
1982〜83年、1997〜98年、2015〜16年にはスーパー・エルニーニョ(super El Niño)と呼ばれる強い現象が起きた。このうち1997〜98年と2015〜16年は、予測を踏まえて早めに対策が取られていたが、今回は違う。研究者らが2021〜22年に開発し2023年に当局へ共有した低コストの遺跡監視手法も、いまだ導入には至っていない。
この10年でペルーの大統領は9人を数え、直近では現地時間7月28日に新大統領が就任したばかりだ。政治の混乱が対策の遅れに影響したとみられる。
9月上旬にはユネスコが後押しする気候リスク指針も発表されたが、対象はペルーの世界遺産13件にとどまる。カラルやチャンチャンのような主要遺跡は定期的に監視される一方、それ以外の小規模な遺跡の多くは保護が手薄だとの指摘がある。
日本にとっての意味
文化遺産が水の脅威にさらされる構図は、日本にもある。川崎市市民ミュージアムでは、2018年3月の洪水ハザードマップ改定で周辺の想定浸水深が3〜5mから5〜10mへ引き上げられ、現行施設は2階まで浸水する想定になった。令和元年東日本台風(2019年10月)では、マニュアルどおりの台風対策は取られていたものの、多摩川が計画高水位を超えて放流渠からの排水量が減り、マンホールなどから溢水する内水氾濫が起きた。地階の9つの収蔵庫はすべて浸水し、23万点近い収蔵資料が被災した。
被災から1年後、2020年10月時点の市の報告書は、本修復まで進んだ歴史資料は「市および県の指定文化財の一部のみ」で、それ以外は乾燥や洗浄といった安定化処置の途中だと記していた。ペルーでは事前の備えの段階で、川崎では被災後の修復の段階で、指定の有無という同じ線引きが表れている。