豪州沿岸、2100年までの海面上昇で最大1兆9100億豪ドルの損失試算
豪州の研究者らが、気候変動による海面上昇と高潮が2100年までに同国沿岸の住宅や農地にもたらす経済的損害を試算した。中位排出シナリオで約8551億豪ドル、高排出シナリオでは最大1兆9100億豪ドルに上るという。試算は、豪州の非営利団体クライメート・カウンシル(Climate Council)が2026年9月10日(現地時間)に公表した報告書の基礎になった。
何が起きたのか
研究チームは、既存の海面上昇予測と高潮の偏差を重ね合わせ、2100年までに浸水しうる地域を地図化した。その範囲に含まれる住宅や農地、インフラを数え上げ、不動産価格などをもとに評価額を割り出し、将来の被害額を現在の価値に換算した。
中位排出シナリオでは、約26万8000件の不動産と200万ヘクタールの土地が被害を受けうると試算された。経済損失は現在価値で約8551億豪ドルに上る。排出が高い水準で推移した場合は、被害を受けうる不動産は約72万件、土地は370万ヘクタールに増え、損失は最大1兆9100億豪ドルに達するという。
地域別では、クイーンズランド州が9万3000件超と最も多く、ニューサウスウェールズ州、西オーストラリア州が続いた。都市単位ではゴールドコーストのリスクが最大で、損失額は844億豪ドルと見込まれる。研究を率いたメルボルン大学のトム・コンパス教授は「リスクが最も高いと分かっている場所に建てないことが、最もコストの低い選択肢だ」と述べている。
背景
海面上昇は、海水温の上昇に伴う海水の膨張と、氷床や氷河の融解によって引き起こされるとみられる。研究チームによれば、豪州の人口の多くは海岸から50キロ以内に住んでおり、海面上昇の影響を直接受けやすい。
報告書の共著者で気候科学者のアンドリュー・ワトキンス氏は、現在は年に一度程度しか起きないような極端な高い潮位が、2090年までには毎月のように起きるようになると指摘している。被害を修復するには「あまりに頻繁すぎる」とも述べている。報告書は、世界の平均海面水位がこの100年余りですでに22センチ以上上昇しており、2014年の水準と比べてさらに30センチから1メートルほど上昇しうるとしている。海面が1センチ上がるごとに、海岸線は平均でおよそ1メートル後退するとも説明されている。
日本にとっての意味
今回の研究は、海面上昇の予測を経済的な損失額に変換したものだ。これに対し東京都は、同じ種類の予測を防潮堤の高さを決める計算式の一項に変換している。
東京湾沿岸海岸保全基本計画(東京都区間)は、気温上昇を2℃程度に抑えるとされる低排出シナリオ(RCP2.6)の上限として、2100年時点で0.6メートルの海面上昇を見込む。これに満潮位や高潮で押し上げられる分、波浪の影響、余裕分を足し合わせ、防潮堤の上端の高さを基準面(A.P.)から5.6〜8.0メートルと定めている。
豪州の研究が中位・高排出という2つのシナリオで損失額を示したのに対し、東京都の設計前提は低排出シナリオの上限値にとどまる。豪州側の結論は「リスクの高い場所に建てない」という土地利用の抑制に向かうが、東京都の対応は海岸の構造物を高くする方向に向かう。同じ予測に対する別の答え方といえる。