イラクの考古学者2人拘束、遺跡破壊告発への報復疑う声
イラクで著名な考古学者2人が2026年9月に相次いで拘束された。当局はうち1人について恐喝を理由に挙げているが、2人はいずれも遺跡を開発可能な区分へ移す「投資法」への批判を公然と続けてきたとされ、発言への報復ではないかとの疑いが広がっている。
何が起きたのか
現地時間9月17日、考古学者アリ・タバル氏が恐喝の疑いで拘束された。タバル氏は国家遺物遺産局(SBAH)に最近まで所属し、発掘の前後に遺跡をドローンで空撮する国内有数の測量者として知られる。ローマ・サピエンツァ大学やベルン大学の海外調査団の依頼でも測量を行っていた。
SBAHは、タバル氏が海外調査団から局に無断で金銭を得ていたと主張し、拘束後の投稿では、こうした抑止的措置を支持すると表明している。タバル氏は審理でこの主張を否定した。サピエンツァ大学の調査団を率いたダヴィデ・ナダリ氏も「SBAHは彼が私たちのために行った仕事を把握していた。私たちは提供された業務に対して報酬を支払っており、彼から追加の金銭を求めるメールを受け取ったことは一度もない」と反論している。
さらに9月下旬には、モスル大学の教授アミール・アルジュマイリ氏も拘束された。容疑の詳細は確認されていない。同氏は、新アッシリア帝国の首都として知られる歴史的要衝ニネヴェの土地をSBAHが最近収用したことを問題視していたとされる。釈放されたか裁判待ちかは不明だという。
背景
イラクの投資法は、遺跡をどの保護区分に置くかを定める仕組みだ。区分は大きく3段階あり、常に保護される最重要区域、発掘作業が続く保護対象区域、そして歴史的価値はあるが決定的ではない区域に分かれる。投資法はこの区分の間で遺跡を移すことを認めており、経済開発のために保護度の低い区分へ動かすことができる。
批判者は、区分を変えるための事前調査が本来必要な数年ではなく数週間で済まされ、結果として重要な遺跡の取り壊しにつながっていると指摘する。タバル氏自身、9世紀にアッバース朝の首都だったサマッラーで事前調査を担当し、モスクや宮殿の遺構の中から多数のキリスト教会や修道院跡を確認していた。しかし2026年に入ってから、その一帯がブルドーザーで削られているのを目撃したという。
タバル氏は廉直委員会や検察、警察に申し立てたが取り上げられず、4月にはフェイスブックで訴え、9月にはバグダッドで抗議行動を組織した。オールド・バスラの遺跡についても、同じ投資法の犠牲になったとしてドローン映像を公開している。
日本にとっての意味
日本にも、開発前に遺跡を調べる仕組みがある。文化財保護法93・94条に基づく届出に対し、都道府県などの教育委員会が取り扱いを決め、現状のまま保存できない場合は発掘して記録を残す「記録保存」とし、費用は開発事業者に求める。
1872年開業の鉄道遺構である高輪築堤跡でも、日本考古学協会が2025年2月の会長声明で、記録保存にとどまった部分の破壊を問題視した。文化庁も、埋蔵文化財の保護と開発の両立を、将来にわたって取り組むべき重要な課題としている。