英ソーン・メダル、横浜・大さん橋を手がけた建築家ファルシド・ムサヴィ氏に
英国とイランの建築家ファルシド・ムサヴィ氏が、2026年のソーン・メダルを受けることになった。設計、教育、執筆を通じた「持続的で厳密な」建築への貢献が理由である。2017年に始まった賞で、同氏は10人目の受賞者となる。授賞式は2026年11月24日、ロンドンの王立芸術院で開かれる。
何が起きたのか
選考委員長を務めた建築家アミン・タハ氏は、ムサヴィ氏が40年近くにわたり、建築の倫理は宣言ではなく実践の問題だと示してきたと述べた。建物の道徳的な価値は、使う人の日々の体験を形づくる大小無数の決定に宿るという。見せ物に走るか、あきらめるかに傾きがちな職業にあって、同氏は「注意深さ」という第三の道を示していると評した。建築家は建物がどう使われ、どう受け止められるかを支配できず、その不確かさは制約ではなく、謙虚さと好奇心と他人の暮らしへの配慮をもって設計せよという誘いだと教えている、とも語った。
ムサヴィ氏は、建築は建築だけの問題ではないとはっきり理解していた創設者を持つ施設に認められたことは、自分にとって最も意味のある評価だと話した。
背景
ソーン・メダルは、ロンドンのサー・ジョン・ソーンズ博物館が2017年に設けた年1回の賞である。館の創設者を記念し、人々の暮らしにとっての建築の大切さに光を当てる狙いがある。2025年は美術家でOMAの共同創設者のマデロン・フリーゼンドルプ氏、2024年は構造エンジニアのハニフ・カラ氏が受けた。
ムサヴィ氏は1965年にイランのシーラーズで生まれ、ハーバード大学デザイン大学院、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン、ダンディー大学で建築を学んだ。2011年に自身の事務所を開き、いまはハーバード大学デザイン大学院の教授を務める。代表作に米国のクリーブランド現代美術館や、2025年に開いたヒューストンのイスマーイリー・センターがある。2022年には、建築界での女性の存在感を高めた人に贈られるジェーン・ドルー賞を受けた。
日本にとっての意味
ムサヴィ氏の代表作の一つは横浜にある。前の事務所フォーリン・オフィス・アーキテクツで、2002年に横浜港大さん橋国際客船ターミナルを完成させている。ターミナルの公式サイトによると、設計は41か国から660作品が集まった国際コンペで選ばれ、アレハンドロ・ザエラ・ポロ氏とムサヴィ氏の案が最優秀となった。当時の日本の設計競技で最大級の規模だったという。
建物には柱のない空間が広がり、階段の代わりに傾いた床で上下の階をつなぐ。高さは着岸する船より低く抑え、屋根はウッドデッキと芝の広場として開かれている。船で着いた客が最初に目にするのは、屋上で出迎える人々である。使う人の日々の体験に建物の価値が宿るという選考委員長の言葉は、完成から20年以上、人を迎え続けてきたこの屋上の広場にも当てはまる。