英労働党大会に、NHSとPalantirのデータ契約破棄を求める動議
英国のリバプールで開かれる労働党大会に、NHS(国民保健サービス)と米国のテック企業Palantirとの契約破棄を求める緊急動議が提出された。動議は政府に対し、2027年2月に到来する契約解除条項の行使を求めている。この動議を審議・採決の対象とするかどうかは、大会運営委員会が判断することになっている。
何が起きたのか
動議の対象は、Palantirが2023年に締結し、運営する「NHS連携データ基盤(Federated Data Platform、FDP)」に関する契約で、規模は最大3億3000万ポンド(約4億3800万ドル)にのぼる。FDPはPalantirのAIによるデータ分析ソフトを用いた基盤で、病院ごとに散らばる医療データを一つにまとめ、分析や改善点の把握をしやすくする狙いで導入された。
動議は保健社会保障省に対し、契約に組み込まれた解除条項の行使を求めている。提出したのは労働党系の社会主義保健協会(Socialist Health Association)と、少なくとも3つの選挙区の労働党組織で、党内左派団体モメンタムとパレスチナ連帯キャンペーンも支持している。動議は、Palantirが「イスラエル軍がパレスチナの土地の不法な占領やガザでのジェノサイドに用いる技術の開発を含め、深刻な人権侵害への関与をめぐる数多くの疑惑に直面している」と主張し、同社の人権をめぐる評価を問題視している。
さらに動議は、労働党の元副党首トム・ワトソン氏がPalantir UKの上級副社長に就任した事実を挙げ、政治家と契約企業の結びつきが有権者の不信を招くと指摘した。契約解除を求めているのは動議提出者だけではない。英議会の科学技術委員会と保健社会保障委員会の2つの委員会も解除条項の行使を政府に求めており、英国医師会(BMA)と労働組合ユニゾンも同様の立場を取っている。
社会主義保健協会のラティ・グハダサン議長は「Palantirの人権をめぐる記録だけでも、政府契約から排除するのに十分だ」と述べ、それを別にしても、NHS内部ではこの技術が目的に合わず費用対効果も悪いという証拠が積み上がっていると語った。この緊急動議を審議・採決の対象とするかどうかは、大会運営委員会が現地時間9月26日(土)に判断する。労働党大会自体は現地時間9月27日(日)に開幕する。
背景
労働党の年次大会で可決された動議は、党執行部や政府を拘束するものではない。今回の動議も、政府が実際に契約を解除するかどうかを直接決めるものではない。ただ、議会の2つの委員会に加え、医師会や労組まで同じ主張をしていることは、Palantirへの委託が党内外で幅広い懸念の的になっていることを示している。
Palantirは米国で国防や移民取締り分野の政府機関と関係が深い企業として知られる。契約に組み込まれた解除条項は、契約期間の途中でも一定の条件下で発注者側が打ち切れる仕組みで、2023年の契約締結時点で、2027年2月に行使可能になるよう定められていたとみられる。動議が今この条項の行使を求めているのは、その時期が近づいているためとみられる。
日本にとっての意味
今回の焦点は、国の医療データ基盤を海外の1社に委ねた契約に、途中で解約できる条項をあらかじめ組み込んでいたかどうかという点にある。日本でも、政府機関のシステムを支える「ガバメントクラウド」の選定では、当初認定された事業者が米国の大手クラウド企業に偏り、その後、条件付きで国内事業者を加えた経緯がある。特定の海外事業者への依存(ベンダーロックイン)をどう避けるかは、マイナ保険証を含む医療・行政データを扱うシステムでも共通の論点になる。英国の事例は、契約に解除条項という出口を用意していても、人権上の懸念や運用実態を理由にそれを実際に行使すべきかどうかが、契約後も政治的な議論の対象になり続けることを示している。