海面上昇で国土消えても国家存続、国連総会で宣言採択
海面上昇で国土や海岸線が失われても、国境や主権、国連での加盟国としての地位は維持されるべきだとする政治宣言が、米ニューヨークの国連本部で現地時間24日、国連総会で採択された。気候変動に脆弱な島嶼国が主導したもので、投票によらないコンセンサスで決まった。宣言は「国家としての地位が継続するとの推定」を確認し、海に沈みゆく地域の住民を各国が協力して支援するよう求めている。
何が起きたのか
宣言が採択されたのは、海面上昇の脅威に対処するための国連ハイレベル会合の場だった。オーストラリアとともに取りまとめ役を務めたカーボベルデのカルバリョ首相は、コンセンサスでの採択を「希望のメッセージ」だと述べ、海面上昇は「遠い脅威でも理論上の懸念でもない」と語った。パラオのウィップス大統領も、会合は「国際的な連帯の瞬間」だとし、島嶼国が国連の恒久的な加盟国であり続けることを強調した。
世界気象機関(WMO)によると、太平洋の海面上昇速度は世界平均の2倍に達しており、マーシャル諸島共和国では沿岸の洪水が年2回から20回に、アメリカ領サモアでは年0回から102回に増えたという。国際司法裁判所は2025年7月の気候変動に関する画期的な勧告的意見で、海面上昇で陸地を失っても基線や海域の外側の限界を更新する義務はないとの判断を示している。グテーレス事務総長は、この「節目」を「行動に移さなければならない」と述べ、可能な限り最高レベルでの対話の継続を促した。太平洋の島嶼国は、法的な確実性を高める海面上昇に関する国際条約を提案している。
背景
海に囲まれた小さな島国にとって、海岸線の位置は単なる地理の話ではない。国連海洋法条約(UNCLOS)では、各国は海岸線に沿って引いた基線をもとに領海や排他的経済水域(EEZ)の範囲を確定する。もし海面上昇で島や海岸線そのものが水没すれば、この基線の位置づけが揺らぎ、国家の主権が及ぶ海域や、場合によっては国家としての地位そのものが問い直されかねない。こうした懸念は、以前から国連国際法委員会(ILC)などで議論されてきた。
太平洋やカリブの島嶼国にとってこれは抽象的な法理論ではなく、生存に関わる問題だとみられる。国土の大半が低い標高にある国では、国土の水没が現実味を帯びて語られている。その場合でも国連加盟国としての地位や、これまで確定した海域の権利を失わないという法的な裏付けを、国際社会全体で確認しておく必要がある。こうした立場から、宣言の採択が目指されたとみられる。オーストラリアは気候変動枠組み条約の締約国会議(COP31)の共同議長国として、太平洋島嶼国が海面上昇への適応や海洋保全を政治課題の中心に据えようとする動きを後押ししている。
日本にとっての意味
海面上昇で根拠となる陸地が消えても、いったん確定した海域の限界を法的に動かさないという今回の宣言の考え方は、日本がすでに公式に支持してきた立場と重なる。2023年4月28日に閣議決定された第4期海洋基本計画は、ILCや太平洋諸島フォーラム(PIF)での基線をめぐる議論に触れたうえで、日本としても基線の維持に向けて各国に積極的に働きかけていると明記している。2025年10月30日に開かれた国連総会第6委員会でも、日本政府代表が、基線や海域の外側の限界を更新する義務はないとしたILC研究部会の最終報告について、日本がかねて表明してきた立場に沿うものだと述べた。
ただし日本の対応は、線を法的に固定すると主張するだけにとどまらない。2010年成立の低潮線保全法に基づき、全国185区域の低潮線保全区域を指定し、基線の根拠点となる低潮線を人為的に削り取る行為を規制している。さらに沖ノ鳥島と南鳥島を特定離島に指定し、港湾施設や海岸保全施設の整備を続けることで、根拠となる地形そのものが失われないよう物理的にも手を打っている。日本は海に離島が点在し、管轄海域の外縁の大部分がこうした離島の低潮線を根拠にしているためだ。政府が保全・管理する国境離島は473島に上るとされる。
もっとも、国内には根拠となる島が実際に失われた例がある。2014年に領海の外縁を根拠づける離島として名前が付けられた北海道猿払村沖の「エサンベ鼻北小島」について、海上保安庁は2019年9月、島は存在せず浅瀬があるだけだと発表した。領海や排他的経済水域への影響はほぼないとされる。消失の原因は特定されておらず、海面上昇によるものか流氷や波浪の影響かは分かっていない。