米国の工場製住宅、床から断熱材までプラスチック パーソンズの研究室が安い1棟の建材を調べる
米ニューヨークのパーソンズ・スクール・オブ・デザインにあるヘルシー・マテリアルズ・ラボ(Healthy Materials Lab)が、米国の典型的な工場製住宅には「人の健康に有害な物質が数多く」使われているとする報告書を公表した。題名は「工場製住宅:一般的な建材が健康と環境に与える影響の分析」。床材、塗料、収納、断熱材と、家の主な表面のほぼすべてにプラスチックとその添加物が見つかったという。
何が起きたのか
工場製住宅(マニュファクチャード・ホーム)は、工場でつくってから現地に運ぶ住宅で、米国ではこの100年ほど、手の届く住まいとして広く買われてきた。米国勢調査局のデータでは、出荷戸数は1970年代初めに年間50万戸を超える水準まで伸び、いまは年間10万戸前後である。
報告書は、こうした住宅に石油化学由来の材料が多用されていることが「健康と環境に大きなリスクをもたらす」と結論づけた。挙げられたのはポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンといった化石燃料からつくるプラスチックで、多くは台所と浴室に集まっていた。
調べたのは、ミネソタ州の工場製住宅メーカー、ノーススター・システムビルトが販売する1棟の建材である。研究者は購入希望者を装って同社に電話をかけ、使われている材料を尋ねた。ラボのエグゼクティブ・デザイン・ディレクター、ジョンサラ・ルース氏によれば、米国最大級のメーカーの、最も安い部類のモデルを選んだ。統計的に代表的な標本ではないが、従来型の安い工場製住宅の典型例だという。同氏は、今回の結果は米国の手ごろな価格の一般住宅によく見られるものと一致していると自信を示した。ノーススター・システムビルトは、Dezeenのコメント要請に応じなかった。
背景
ルース氏は、有害なおそれのあるプラスチック建材は住宅業界全体の問題だと認める。石油由来のプラスチック建材は、工場製に限らず米国の新築住宅に広く行き渡っている。それでも工場製住宅を取り上げたのは、手ごろな価格と従来型の建て方が最もはっきり交わる場所だからだ。そこでは、健康や環境への負担を外に押しつける材料が選ばれやすいという。
同氏は、プラスチックへの曝露との関係を示してきたシャナ・スワン博士の研究や、有害な化学物質を6つの群に整理したグリーン・サイエンス・ポリシー研究所の枠組みを引き、住宅での石油化学材料の増加と健康上の懸念は1990年代から報告されてきたと話す。よく知られた例が、ハリケーン・カトリーナの後に米連邦緊急事態管理庁(FEMA)が被災者に貸したトレーラーで、仮の住まいでの高濃度のホルムアルデヒドへの曝露の危険が浮かび上がった。
報告書の狙いは、同じ種類の住宅をより健康的な材料で建てられると示すことにある。ビニルの床材をリノリウムに替える、プラスチックの仕上げの代わりに木の仕上げを選ぶ、といった具合だ。ルース氏は「工場製住宅に反対しているわけではない」と言い、2000年に非営利団体エンタープライズ・コミュニティ・パートナーズと大手メーカーのクレイトン・ホームズが組んだように、材料の改善に取り組んだ例もあると指摘した。求めているのは、手ごろな価格で、より健康的で炭素の少ない工場製住宅だという。
プラスチックが体に与える影響、とりわけマイクロプラスチックがどこにでもあることは、近年盛んに調べられてきた。屋内でマイクロプラスチックにさらされうることを示した研究もあるが、健康被害があるとまでは主張していない。写真はロジャー・スターンズ・シニア氏がUnsplashで公開したもの。
日本にとっての意味
日本のシックハウス対策は、建材から空気に出てくるものを抑える形でつくられてきた。国土交通省によれば、2003年7月1日に施行された改正建築基準法で規制の対象になった化学物質は、ホルムアルデヒドとクロルピリホスの2つである。クロルピリホスを加えた建材は居室のある建物で使えず、ホルムアルデヒドは発散の少ない建材を使い、換気設備で濃度を下げる。ルース氏が挙げたFEMAのトレーラーと同じ物質が、日本でも規制の出発点だった。
今回の報告書が問題にしたのは、塩化ビニルなどのプラスチックそのものとその添加物である。塩化ビニルを柔らかくする可塑剤には主にフタル酸エステル類が使われる。愛知県衛生研究所によると、2017年に国内で出荷された可塑剤の82%がフタル酸エステル類で、その52%をフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)が占めた。
厚生労働省は、DEHPに1立方メートルあたり100マイクログラム、フタル酸ジ-n-ブチルに17マイクログラムという室内濃度の指針値を示している。いずれも2019年1月17日に改められた。ただしこれは、自治体などに建築物衛生などの施策で活用を求める目安で、建材の使用を縛るものではない。愛知県衛生研究所は、玩具や育児用品ではフタル酸エステル類の使用が規制されている一方、住宅の建材や内装材には規制がないと説明している。室内のほこりには指針値もない。同研究所は、ポリ塩化ビニル製の床材やフローリングの家では、ほこりに含まれるDEHPの濃度が高いという報告も紹介している。
日本の規制と指針値が見ているのは、建材から空気に出てくる物質である。ヘルシー・マテリアルズ・ラボが確かめたのは、家が何でできているかという材料の中身だった。ビニルの床材をリノリウムに替えるという提案は、空気の基準を物差しにする仕組みからは出てきにくい。