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ホワイトハウス増築で政府を訴えた米保存団体、訴訟のための1000万ドル基金を立ち上げ

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米ワシントンの非営利団体、全米歴史保存トラスト(NTHP)が、訴訟のための資金として1000万ドルを集める運動を始めた。2025年、ホワイトハウスへの舞踏会場の増築をめぐって政府を訴えた団体である。新しい基金は「歴史保存防衛基金」と名づけられ、2026年の全米保存サミットの場で発表された。

何が起きたのか

NTHPによれば、基金の目的は「国の歴史的な場所と、それを守る法律を、ワシントンから来る差し迫った脅威から守る」ことにある。歴史的な場所やそれを守る法律が脅かされたときに、訴訟、世論への働きかけ、地域の行動に資金を回す。

NTHPは、政府がワシントンで進める建築への介入をめぐって、いくつもの訴訟に関わってきた。ホワイトハウスの改変を止めようとした訴訟では、工事を差し止める命令を勝ち取ったが、この命令は最近効力を失った。トランプ大統領は、NTHPを「この国にとって悪い」と非難している。

米連邦最高裁の決定によると、経緯はこうだ。政府は2025年10月にホワイトハウスの東棟を建て替える事業に着手し、12月までに取り壊しを終えた。NTHPは連邦地裁に提訴し、地裁は2026年3月31日、地下の軍事施設を除く地上部分の工事を差し止める仮処分を出した。控訴裁判所は8月7日にこの仮処分を支持したが、最高裁は8月31日、政府の申し立てを認めて仮処分の効力を停止した。

NTHPはウェブサイトで、連邦政府による保存の歯止めが「危うくなっている」証拠として、ホワイトハウスの東棟とジョン・F・ケネディ舞台芸術センターを挙げた。東棟はすでに取り壊され、跡地はトランプ氏が進める舞踏会場の増築の工事現場になっている。ケネディ・センターは、トランプ氏による改名と改修の計画をめぐる争いの末、閉館した。政府が計画する凱旋門についても、ワシントンの歴史的な眺めへの「侵入」だとしている。

背景

基金を立ち上げた理由として、NTHPは連邦政府の保存への姿勢が変わったことを挙げる。2026年6月に会長に就いた建築史家のブレント・レッグス氏は、かつては連邦政府を、米国の物語を残すうえでの土台となる協力相手とみなしていたと振り返る。党派や文化の違いを越えて、歴史の記録を残すことは大切だという共通の理解があった。だが政府がこの仕事から手を引くいま、自分たちが本気で引き受けるしかない、という。

レッグス氏が特に問題にしたのは、国家歴史保存法の106条を書き換えようとする政府の動きである。106条は、連邦政府の機関に、自らの事業が歴史的な建造物や場所に与える影響を考慮するよう求める条文だ。公共ラジオNPRによれば、いま歴史保存諮問会議(ACHP)が106条の規則を弱めようとしている。同氏は、新しい規則が実施されれば、リフレクティング・プールやスミソニアン協会のような事業をめぐる現在の法的な保護が「劇的に弱まる」おそれがあると述べた。どちらもトランプ政権のもとで変更を迫られてきた場所である。

同氏は、議会、裁判所、政権に説明責任を求める声が米国の人々から上がっているとし、誰も政策を破ったり武器にしたりしてこれらの場所を危険にさらせないようにすべきだと訴えた。「いまが存亡の瀬戸際だと言っても誇張ではない」という。

NTHPは1949年に設立された、民間の資金で運営される非営利団体で、保存の水準を守るために米議会から設立の認可を受けている。レッグス氏は、NTHPを率いる初めてのアフリカ系米国人の最高経営責任者である。

日本にとっての意味

最高裁が仮処分を止めた理由は、工事が合法かどうかではなかった。NTHPには連邦の裁判所で争う資格がない公算が大きい、というものである。NTHPは会員の一人の宣誓供述を根拠にした。ワシントンに住み、ホワイトハウスの周辺に月に1度ほど出かけるこの会員は、完成した舞踏会場の規模や高さを見ることで、美的、文化的、歴史的な利益を損なわれると訴えた。5人の多数意見は、他人の行いへの苦痛や不同意は、連邦の裁判を起こす根拠にならないとする過去の判例を引き、これを退けた。ロバーツ長官ら4人は反対した。

日本の最高裁は、37年前に同じ門を閉じている。静岡県浜松市の伊場遺跡では、静岡県教育委員会が史跡の指定を解除した。遺跡の研究者たちが解除の取り消しを求めたが、最高裁は1989年6月20日、県の条例にも文化財保護法にも、県民や国民が文化財から受ける利益を個々人の利益として守る趣旨の規定はないとして、訴える資格そのものを認めなかった。北島隆次弁護士が日本不動産学会誌(2016年)に寄せた論考によれば、2005年施行の改正行政事件訴訟法で訴える資格の判断は広がったものの、現行の文化財保護法のもとで保護を望む人に資格を認めるのは難しい。そのため、埋蔵文化財をめぐる争いは、自治体の支出を問う住民訴訟の形をとることが多いという。

法律の側も、国が自ら手がける工事には緩い。遺跡があると知られた土地(周知の埋蔵文化財包蔵地)を民間が工事で掘る場合、文化庁長官は発掘前の記録調査などを指示でき、調査のための発掘であれば禁止や中止も命じられる(92条、93条)。ところが国の機関や自治体が掘る場合は、あらかじめ文化庁長官に通知すればよい(94条)。長官ができるのは、協議を求めることと勧告することまでである。米国の106条も、歴史保存諮問会議の説明によれば、連邦政府の機関に影響を「考慮する」ことと、最終決定の前に意見を述べる機会を設けることを求める手続きの規定である。

景色や歴史が失われることへの痛みは、日米どちらの最高裁でも、訴える資格の根拠として認められなかった。NTHPの新しい基金が、訴訟だけでなく世論への働きかけや地域の行動にも資金を回すとしているのは、裁判所の門が狭まったことへの備えとも読める。